【愛とツチノコの夜】その三
※実在する団体や個人が出てきますが、会話等は全てフィクションです。
(センム出たーっ!ハラハラ、ドキドキ…柚姫様、瀬戸口様、ふつつかな専務をよろしくお願いします!)
人はぬくぬくとしたリビングでYouTubeを映すテレビ画面を見ながらツィートを続けていた。
奇妙な緊張のみなぎる中、柚姫嬢がセンムをコールした。
「なんと、サンスマイルさんの専務です!」
「入江と申します」
このような状況に不慣れなセンムは瞳孔が開いて目を泳がせながらも謝辞を述べた。
「こんなにつちのこを出していただいてありがとうございます💦」
瀬戸口氏が努めて慎重にセンムに話しかけた。
「まずは確認なんですけども…入江さんは怒ってはらっしゃらないですか?」
専務は険しい顔で一瞬の間を置いた。
瀬戸口氏と柚姫さんの表情が凍り付く。
この時、全国のYouTubeのチャットもピタリと止まり、ルームメイト達は固唾を飲んで様子をうかがう。
次の瞬間…
入江「…いえ、もうそんな全然」
瀬戸口「うわー!」
大黒「良かったー」
MC・ホストの二人が安堵の色を浮かべた。
「打ち合わせと全然ちがったー!ムッチャムチャ怖かったですよ、今」
事前の打ち合わせではTディレクターとPOPO氏は口裏を合わせて、サンスマイルがあまりよく思っていないからくれぐれも丁寧に対応するようにと瀬戸口氏と柚姫嬢に指示されていた。
センムの一瞬の間は事前にTプロデューサーから指示された演出だったのだ。
ルームメイトも安心したのか、YouTubeのチャットが目を覚ましたようにしゃべり始め、「よかったー」「ほっとした」「ありがとう」「応援してます」といったセンムへの好意的なコメントで溢れた。
サンスマイルに出演交渉が成功した2週間ほど前の打ち合わせの席で、TディレクターとPOPO氏が深刻な顔でMCの二人に告げた。
「瀬戸口さん、大黒さん、問題発生…」
「どうしたの、POPOちゃん?」
柚姫嬢は屈託なく小首をかしげた。
何度も修羅場をくぐってきた瀬戸口氏は二人の表情に不安を感じた。
「じつは…ツチノコの無断使用がバレたんです…」
「えっ!!」
MC二人は顔を見合せた。
青天の霹靂だった。
元々、柚姫嬢がセントレア空港のファミリーマートで見つけた「つちのこつかまえた!!」という商品。
ツチノコという奇妙なヘビかトカゲのような生き物のおもちゃだが、妙にリアルで、握ると「ホゲッ」と鳴きながら舌を出すのがキモカワイく妙に気に入った。
(柚姫の部屋で使えるかなぁ…サバラサバラ…)
柚姫嬢が面白半分に柚姫の部屋第二回に持ち込んだところこれが予想外の好評だった。
(イケる!)
柚姫嬢の勘がそう告げた。
柚姫の部屋の企画会議で柚姫嬢はスタッフにツチノコのマスコットとしての使用を主張した。
「柚姫さん頭おかしいよ、ツチノコ何十個も買えなんて!」
結局反対を押し切った柚姫さんのたっての希望で、Tプロデューサーは千葉県松戸にある名も知れぬ会社サンスマイルにツチノコ96個の仕入れ手配をした。
芸能という才能と権利の世界で飯を食う柚姫嬢だったが、こんな名も知らぬおもちゃに権利が存在する事を失念していたのだ…
センムは数日前を思い返していた。
第24回の放送が終わり、次回予告がTwitterやYouTubeでされるようになった。
「【柚姫の部屋 第25回】 つちのこがばれたあああああ!?どうなる番組配信! 誕生秘話を製造メーカー”サンスマイル”専務が語る…TEAM SHACHI大黒柚姫」
サブタイトルを見た時にセンムは苦笑いした。
「ものものしいサブタイトルだな。知らないところで自社商品を露出してくれていたなんて小さいメーカーにとって感謝こそすれ、問題視などはしないのにな。」
「この方がキャッチーだからじゃないですか。」
新人が言うとセンムは怪訝そうな表情で首を傾げた。
(そういうものなの?)
いずれにせよ、センムの怒りがTプロデューサーのドッキリだったとわかった柚姫の部屋の雰囲気は一気に和んだ。
続く
※くれぐれも実在する団体や個人が出てきますが、会話等は全てフィクションです。
今明らかになるツチノコの秘密
果たしてサンスマイルの野望とは!?
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新人 (木曜日, 28 5月 2020 16:06)
ルームメイトの方は追体験になります。
思い出しながらお楽しみください。